年が明け、さんえすでは日替わりで色々な利用者さんと一緒に初詣へ出かけました。
その中のある日、岩倉市にある神社へ初詣へ行ったところ、一人の利用者さんから「昔よくここへ来てたのよ」と話がありました。
話を聞くと、昔この神社がある広場へよく体操をしに来ていたとのことでした。
「また来れるなんて」と感慨深そうに話しながらみんなで広場を通り神社へ向かいます。
そして拝殿に到着し他利用者さんたちが参拝していく中、その利用者さんは拝殿の前で待っていました。
その利用者さんは車椅子に乗っており、階段を上ることができなかったのです。
その様子を見たスタッフが、「お参りしましょうか」と声をかけます。
「私階段上がれないから…」と戸惑う利用者さんに対し、スタッフは迷うことなくもう一人のスタッフに声をかけ、二人で車椅子ごと階段をのぼっていきました。
無事拝殿に上がることができた利用者さんは、そこからの景色を確かめるように見回し、そのあとゆっくりとお祈りをしました。
その時、その利用者さんがどんなことをお祈りしていたかはわかりませんが、今までこころに溜まっていた色々な思いをひとつずつ整理し、良いこともそうではないことも自身の中で消化されていったのではないかなと思います。
お祈りが終わりまた階段から車椅子ごと下におりたあと、スタッフに「またお参りできるなんて思ってなかった。本当にありがとう」と何度も感謝の言葉を伝えていました。
車椅子の方が階段を前にしたとき、車椅子ごと昇り降りすることは介護者にとって負担もリスクも高く、技術も必要なことです。
一般的にはあまりお勧めされるような介助方法ではないかもしれません。
「自分は車椅子だから階段の上にあがってお参りはできない」と諦めてしまっている利用者さんに対して、「お参りしましょう」と迷わず車椅子ごと階段をあがるという判断ができる人はなかなかいないと思います。
ですが、このスタッフのように「やれないこと、できないこと」を当たり前にせず、「やるためにはどうするか、できる方法はないのか」と考えることが利用者さんの生活を支える介護スタッフにとって一番大切な考え方だと思います。
それは、スタッフから利用者さんへの「諦めないでください。まだできることはたくさんありますよ」という強いメッセージです。
さんえすでは、今回のように一般的な「介護の常識」ではとらないような手法を用いることが度々あります。
アパートの2階に住んでいる利用者さんで、身体機能の低下から階段昇降ができなくなった方がいました。
階段昇降車を使ったそうですが、本人が「怖い」と使用にはつながらず「どうにならないか」とさんえすに相談がありました。
家族さんにリスクを説明したうえで、おんぶをして階段の昇り降りをして送迎することになりました。
その後も、毎回スタッフがおんぶをして階段を上り下りしてデイサービスを利用されました。
また、別の利用者さんでは荷物がいっぱいの部屋の一番奥に何年間も外に出ず寝たきりの方がいました。
ようやく同居の家族さんがデイの利用に承諾したため、まずはなんとかその方を外に出す方法を考えている中でさんえすに相談がありました。
本人は立てず動けず、部屋に車椅子が通れるスペースもない状況だったので、方法は一つ「抱っこして連れてくる」しかありませんでした。
何年も他人が立ち入ることが無かった家だったので、家の中はそれはそれは言葉では言い表せない状態でしたが、家の奥まで入っていき布団の上で横になっているその方をお姫様抱っこのような状態で抱きかかえ、何とか外に連れ出すことができました。
何年振りかに太陽を見上げたその利用者さんが「ああ、気持ちいい」と小さい声で言った時の顔が今でも忘れられません。
その後しばらくさんえすに通っているうちに、みるみるうちに元気になり表情も豊かになり、その利用者さんの本来の笑顔をみることができました。
利用者さんは身体機能や認知機能の低下を理由に、自分の役割ややりたいこと、楽しみや希望など色々なものを奪われ色々なものを諦めてしまっています。
そんな利用者さんが「前向きに活き活きと生活をしていくこと」は絶対にできません。
利用者さんに前向きに活き活きと生活してもらうためには、「本当はやりたい」という気持ちを無理矢理押し殺して「私はこんなだからしょうがないよね」と我慢させてはいけないのです。
スタッフは利用者さんの本当の気持ちに寄り添い、その気持ちに応えることができる方法を考えなければいけないのです。
それが「普通はやらない」「やったことが無い」方法であってもです。
初詣で、利用者さんが諦めていたことを一つ実現させることができたスタッフのとっさの対応は、利用者さんに前向きに生きるための大きな勇気を与えてくれたと思います。
私たちは利用者さんに「諦めないでください。まだできることはたくさんありますよ」というメッセージを送り続けなくてはいけないのです。
野村