
以前、病気で体調を崩していましたがどうにか入浴したいとのことで、短時間での利用をされているご利用者さんがいらっしゃいました。
状態が悪化し一旦入院され、退院後再度入浴をするために利用を再開した日、血圧も低く身体に力が入らない状態だったため機械浴でも対応が難しいと判断し、ベッド上での清拭での対応をさせて頂きました。
清拭をしている時、穏やかな表情でスタッフに対して何度も「ありがとう」「ありがとう」と伝えている姿がとても印象的でした。
そのデイ利用後、数日経った日にご自宅で救急搬送され入院、そして数日後にお亡くなりになったとご連絡を頂きました。
ご利用者さんがお亡くなりになった後、ご自宅にお伺いした時に奥さんと色々お話をさせて頂きました。
ご利用者さんの若い頃の話やご結婚されてからの話、ご利用者さんは奥さんが働かなくていいように一生懸命働き続けていたこと、自分はとても大切にしてもらってきたということ。
「ずっとお父さんと一緒だったから亡くなった実感が何もないんです。毎朝起きたら隣にいるような気がしてます」
そのあとの奥さんの言葉がとても印象的でした。
「寂しいというより寒いんです」
その言葉を聞いた時、ドキッとしました。
ご主人が亡くなられた実感がない奥さんは、本当に寂しさを感じていないんだ。
いつもと違うのは、二人から一人になった部屋がいつもより「寒い」ということだけなんだと。
そう話している奥さんの表情は、悲しみや寂しさというよりは現実に戸惑っているような印象を受けました。
この奥さんの言葉には、奥さんにしかわからない、ご利用者さんと奥さんの関係や今までの二人の積み重ねてきたもの全てが詰まっているのだと思いました。
今回の奥さんの気持ちと同じように、他のご利用者さんの気持ち、本当に感じていることや何を思っているのかということは、恐らくどれだけ考えても想像しても当人にしかわからないものなのかもしれません。
重い病気になった時の気持ち、思うように身体が動かなくなった時の気持ち、認知症と診断された時の気持ち、できていたことができなくなった時の気持ち、排泄を失敗した時の気持ち、他人にお世話されるようになった時の気持ち、デイサービスに通うように言われた時の気持ち、家族のことがわからなくなった時の気持ち、自分のことがわからなくなった時の気持ち、大切な人を失った時の気持ち。
「利用者さんの気持ちを理解しましょう」
よく言われる言葉ですが、どれだけ考えても本当に理解するということはできないのかもしれません。
大切なのは「理解すること」ではなく「理解しようとする」こと。
どれだけ考えてもご利用者さんの気持ちはわかりません。
わからないから考える。想像する。
ご利用者さんの気持ちを理解できるなんていうおごりを持たず、ただご利用者さんに少しでも前向きに生活してほしいという思いで利用者さんの気持ちを考えて想像する。
それがご利用者さんの生活を支援する仕事をしている私たちにできることだと思います。
野村