さんえすでは、できる限り利用者さん一人ひとりにあわせた「個別活動」を考えて実施しています。
個別活動は、利用者さん個人に合わせた脳トレやレクを提供することではありません。
さんえすの個別活動は、利用者さんの趣味・特技、仕事、家庭での役割などをもとに、今利用者さんが「本当はできるのに環境が原因でできなくなっていること」や、「やりたいけど諦めたこと」などにスポットを当てて、利用者さんの能力を活かして実現できる環境を作ることです。
そして、個別活動で自分の能力を活かしたり、諦めていたことができた時の利用者さんの表情はとても明るく穏やかで活き活きしています。
個別活動を通して利用者さんが無くしかけていた尊厳や前向きに生きていく力を取り戻すことができると考えています。
ですが、個別活動を考えるのは簡単ではありません。
介護スタッフが個別活動を考える時、どうしても無意識に「介護」というフィルターを通して考えてしまいます。
「介護」というフィルターを通して利用者さんを見ると、「危ない」「できない」ことばかりが見えてしまい、当たり障りのない活動やありきたりな活動、「~ごっこ」「~風」な大人がするには幼稚に感じてしまう活動しか考えることができません。
原因は、頭に「介護」という言葉の古い固定概念がこびり付いているのだと思います。
措置時代の「療養上の世話」をする介護はとっくに終わり、介護保険制度の開始とともに「自立支援」へと変わっているにも関わらず、現場で働くスタッフも世間も未だ「療養上の世話」のイメージを払拭することができていない人が多数いるのが現状です。
特にデイサービスは在宅サービスであり、利用者さんが自宅で自立した生活を続けることができるために機能訓練を行う場です。
利用者さんのお世話をして管理する場ではありません。
スタッフが利用者さんとひとりの「人」として関り、今までの人生を知り、今の状態を知り、これからの生活を前向きに生きてもらうきっかけや目標・生きがいを提供するのがデイサービスの役割です。
そのために、自由な発想でさんえすとしてできることを個別活動として考えています。
例えば、家で調理ができていない利用者さんが「息子に味噌汁を作ってあげたい」とスタッフに言った一言をきっかけに、家で味噌汁を作れるようになるために、まずデイの昼食用の味噌汁を作ってもらうことにしました。
そして、味噌汁に入れる具材を何にするか決めてもらいました。どうせ具材を用意するならスタッフと一緒に買いに行って自分の目で見て選んでもらうことにしました。
できればその利用者さんが昔行っていたスーパーがあれば、そこに行って買い物をしたら尚いいですよね。
久しぶりに買い物に行き、味噌汁を作った利用者さんは本当に活き活きしていました。そして「今日の味噌汁美味しかったです」と伝えるととても嬉しそうに「ありがとう」と逆にスタッフにお礼を言っていました。
その後も何度か味噌汁を作ってもらううちに他の料理も作ってみたいという話がでたので、その後煮物やお浸しも作ってもらい、昼食で他利用者さんにも提供して食べて頂きました。
次はカレーを作りたいという話が出たので、今度はカレーを作ってもらう予定です。
ちなみに今回のカレーは、他利用者さんの昼食が全員カレーになるのはどうかなと思ったので、その日のスタッフの昼食として作ってもらうことにしました。
スタッフもその利用者さんもカレーを作ってもらう日がとても楽しみです。
このように、利用者さんの一言をきっかけに活動がどんどん広がっていきます。
まず、「息子に味噌汁を作ってあげたい」という利用者さんの言葉を聞いた時、「そうですね」と聞き流すのか、「作れるといいですね」「がんばりましょうね」で終わるのか、または「どうやったら作れるか」と考えるのかが決定的な違いになります。
そして、普段スタッフが作っている味噌汁を利用者さんに作ってもらうことが許されるのか、利用者さんを連れて具材を一緒に買いに行くことが許されるのか、煮物やお浸しを作っても許されるのか、カレーをスタッフの昼食用に作ってもらうことが許されるのか、恐らく悩む人は多いと思います。
古い介護の固定概念がある人は、「普通そんなことやったらダメでしょ」と考えると思います。
ですが、僕は普通に考えてなぜダメなのかわかりません。ダメな理由が何もありません。
当然、調理する時の安全面・衛生面の配慮や、行く先のスーパーを下見して動線やトイレの位置と設備を確認することは必要です。そうして、利用者さんが調理や買い物ができる環境を作るのが仕事だと思っています。
「介護施設だから」「デイサービスだから」「利用者さんだから」「認知症だから」「車椅子だから」「危ないから」を理由にして何でもダメというのは、スタッフが考えることや利用者さんと向き合うことから逃げているように感じます。
そして、「あれもダメ」「これもダメ」と本来あったはずの生きがいや尊厳、自尊心を奪われた利用者さんは、これから先どういう人生を送るのでしょうか。
古い固定概念の「介護」というフィルターを通して利用者さんを見ると見えなくなるものは、利用者さんの未来です。
「一人ひとりに合わせた…」というフレーズは、デイサービスや入所施設などの介護事業所ではよく目にするものですが、実際に実施できている事業所はどの位あるのでしょうか。
介護業界が、本当に利用者さん一人ひとりのことを考えて、利用者さんの持っている可能性を制限することなく、疾患や不安、苦しみを抱えながらも前向きに生活することができるサポートができる場になることを願っています。
野村