2021年9月23日 8:24 am

「車で利用者さんを田んぼに連れていきたい」

ある日スタッフから話がありました。

 

もちろんOKを出し、いきさつや内容を聞きました。

 

 

 

利用者さんの送迎中、田んぼ道を車で走っていると「昔は夕方になると田んぼ道をよく歩いたもんだ。稲の匂いが懐かしい」と話をしてくれたそうです。

 

そこで、「今度散歩に行ってみますか?」と聞くと「身体がえらくてムリ」と言うので「車椅子で行ってみますか?」と聞くと「車椅子は絶対乗らない」と断固拒否。

普段ふらつきながらも杖で歩いている方なので、車椅子に乗ることに抵抗があるようでした。

 

昔畑をやっていたり田んぼ道をよく歩いていた人なので、できれば昔のように田んぼの真ん中で稲や土の匂いをかぎながら記憶の奥に残っている風景を感じて欲しい!ということで、車で田んぼまで行きたい、ということでした。

 

 

早速、利用者さんの個別活動として行ってみました。

 

 

車が田んぼに到着し、車の中から田んぼの稲や畑の野菜を見ながら話をしようと思っていると、自分で車から降りて畑の中へ入って行ってしまいました。

 

側溝を覗いてメダカやザリガニを眺めたり、畑の野菜を見ながら「里芋の成長が悪いな」「オクラは大変だから一回も育てたことがない」と息を切らしながら次から次へと言葉が溢れ出てくるようでした。

 

 

車に戻り、デイまで帰る間も何度も途中で車を停めては野菜の名前を教えてもらいました。

 

 

その後も、スタッフと一緒に田んぼまで行くと「肥しやってないな。育ちが遅いな」と言いながら、稲の収穫方法や自分がやっていた頃の話など、活き活きとした表情で色々な話をしてくれました。

 

 

普段は話していても冗談ばかり言ってふざけていることが多い人ですが、田んぼや畑では自分がやってきたエピソード、野菜の名前などの知識などがとても鮮明で、そして普段よりしっかりとした足取りで歩くことができていました。

 

そしてデイに戻ってくると「とてもいい時間でした」ととても満足そうな表情でした。

 

 

 

認知症の非薬物療法として「回想法」があります。

 

回想法は、視覚(昔の写真や映像を見せる)、触覚(昔のおもちゃを触る、家事道具を触る)から情報を与えて、質問する(それはどうやって使う物?何歳の頃?など)ことで記憶を呼び起こし、本人の口から話をしてもらうことで認知症の予防や進行を抑えるものです。

 

回想法を実施すると、「思い出すこと」「人に話をすること」で脳の機能が活性化すると言われています。

 

そして、もっと大切なことは自分の人生を振り返り自分の体験や知識、その時の感情などの「自分のこと」を他人に伝えることで、自分の人生に対しての肯定感や尊厳を得ることができることだと思います。

人は誰でも「自分のこと」を人に聞いてもらえることは楽しくてうれしいことです。

「自分のこと」を人に伝え、それを聞いてくれる人がいることで、脳機能に対する効果だけでなく精神的にも前向きになることができるのです。

 

 

今回の「田んぼへ行く」という個別活動は、よく行われるアセスメントしてから道具を用意して時間を設けて行う通常の回想法とはやり方は違いますが、とても効果的ですごく素敵な活動だと思います。

 

目に映る風景、稲や土の匂い、野菜の手触り、田畑にいるだけで全身を使って記憶を呼び起こし、昔にタイムスリップしたかのように記憶が溢れてきます。

 

田畑のなかにいる姿は、何十年か前の若い頃の利用者さんが立っている姿のように見えます。

 

 

野村

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